忘却と復活

  • 2018.01.31 Wednesday
  • 20:31

 

「見られている」ことに気づくのでしょうか、野鳥にカメラを向けますと、ずいぶんと離れているのに、ぱささっと飛び立たれてしまうことがよくあります。

 

 

 写真の腕が未熟な私にとって、「萌え。」と思える瞬間の姿を撮影することができるのは、その「ぱささっ」よりも早くシャッターを押せる場合、あるいは、「撮るぞ」というこちらの気合いを野鳥に気取られないで落ち着いて構図を定めてシャッターを押せる場合、あとは、まぐれ。いずれかといったところです。しょせん、デジカメのオート機能に頼った素人の技ですけれども。それでも少しずつ、風景を撮るこつのようなものが身についてきた気もいたします。野鳥も含め、風景が「撮らせてくれる」瞬間をつかむ、といった感触でしょうか。

 

 私たち人間も、背中に目があるわけではありませんが、今、背後から、あるいはかなり遠くから、誰かに「見られている」と気づくことがあります。こういう人類の能力は、おそらく退化の一途をたどっているのでしょうが、3歳までの子どもは、後ろから振り下ろされる棒を自然に避けられる、と聞いたこともあります。大人になるにつれて失う能力でもあるようです。

 

 霧芯館の受講者である作業療法士さんのお一人とメールでやりとりしていたとき、「“相手のことを考えていたらメールが来た”現象」というものについて盛り上がったことがあります。お互いそれはよく経験する、という話から、この現象は、そもそも人に備わっていたはずの「見られていることに気づく」能力が、近代化とともに使いどころを失くし、ついに昨今のIT社会において「相手が今、自分に向かってメールをうっていることに気づく」能力として奇妙な特化を遂げて噴き出している姿なのではないか、といった文明論に。ことに、女性はこの能力が高いのだとか。

 

 KJ法をもし難しいと感じるならば、その困難さは、同じような「能力の忘却」に根ざしているかもしれません。

 個人が個人として何もかも完結していて、他者や世界と非合理的なつながり方などしていない、と考える限り、実はKJ法はなかなか上達しません。

「何だか気にかかる」ラベルをピックアップして、と言いましても、「気にかかる理由・根拠」を明晰にする癖がついていますと、「根拠がはっきりしない」ラベルへのアンテナが働きにくくなります。「ラベル達が言いたがっていることを聴き届ける」といったKJ法らしさの実現も、ラベルへの分析・解釈・分類に慣れてしまった思考パターンでは一苦労であったりします。

 このKJ法の作業への不全感は、〈全体〉を見失い、個々に分断されたものとしてしかラベルを見ることができず、主体と客体もまた分断されたものとして、ラベルをただの操作対象としてしまう世界観から発しています。

 全体感を背景として、個々のラベルの訴えかけを象徴的に感受する能力。それを「忘却」しているにすぎないのですけれども。決して、そのような「能力が無い」からKJ法など無理、というわけではなく、思い出そうとおもえば、誰でも思い出せる能力のはず。

 この能力を思い出すことは、〈世界観〉を根こそぎ変容させることになります。

 KJ法が「誰でも使える方法である」ということの真の意味は、この、忘却した世界観、忘却した能力を思い出せるならば「誰でも」、ということなのです。決して「簡単だから」、ではありません。

 そして、一度思い出せたなら、もはや簡単か難しいか、といったことは気にならなくなってしまう方法でもあります。方法に強いられ、ラベル達に強いられ、おのずと発想せざるを得ない、素直で我執のないプロセスを自然に歩んでいる自分の集中力に気づくとき、こんこんと湧き上がる「〈世界観〉の変容」という泉に身を浸していることに衝撃を受けます。

 

 私の「野鳥の撮り損ね」も、技術以前の問題として、野鳥と野鳥を取り巻く風景に対して「我」が発動してしまい、やすやすと気合いを悟られてしまっている、ということも言えそうです。

 

 2018年も、世界観に磨きをかけ、風景とのみずみずしい交感の瞬間を写真でお届けできればとおもいますし、霧芯館の研修を受講される方々にも、世界観変容の衝撃を、忘却した能力の復活を、さわやかに体験していただけるよう、精進してまいりたいとおもいます。

 

 

 少しおぼろですが、今日は満月。もうすぐ皆既月食の始まりです。

 

 

 

 

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